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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)620号 判決 1969年7月17日

原告 今本良子

右訴訟代理人弁護士 松原倉敏

被告 株式会社エーワンベーカリー

右代表者代表取締役 楊伝枝

右訴訟代理人弁護士 中元兼一

同 増田淳久

同 渡辺慶治

主文

一、被告は原告に対し別紙目録記載の建物の一階のうち別紙図面のイロハニホヘイで囲まれた部分を明渡し、昭和四一年四月一三日から右明渡しに至るまで一ヵ月金四〇、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

(請求の趣旨)

主文同旨の判決を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

≪以下事実省略≫

理由

一、(当事者間に争いのない事実)

本件建物はもと安藤実の所有であったが、安藤金六が同人から譲受け、さらに昭和三九年五月八日原告が安藤金六から買い受けて所有していること、原告の実母である今本フクが昭和二七年頃安藤実から本件建物の一部を賃借し、昭和三〇年頃には全体を賃借し、昭和三六年四月一三日被告に対し昭和四一年四月一二日を期限として本件建物の一部を貸与して引渡したこと、原告は本件建物を買い受けた後使用料の点を除き今本フクが被告に貸していたと同様の約定で引続き被告に貸与したこと、被告が対価としてこれまで賃料を支払ってきたこと、は当事者間に争いがない。

二、(貸借の範囲および性質)

従って原被告間の貸借の範囲および性質を判断するには、まず今本フクと被告の間のそれについて検討しなければならない。

(一)  ≪証拠省略≫によれば、原告と今本フクは今里屋久兵衛という商号(以下今里屋という)で和菓子の製造販売を営んでおり、今里屋は享保年間から続いている老舗であること、本件建物は阪急十三駅西口と道をへだてて向いあっており、物の販売には都合のよいところから、今本フクは前記のとおり賃借し、一時は喫茶店を経営していたほか、引続いて和菓子の販売を営んできたが、安藤実に支払わねばならない賃料が相当高額であり、今里屋の経営も楽でなかったことに加えて、本件建物が老朽化して周囲の他の建物と比較するとどうしても改造する必要があったところから、今里屋の支配人をしていた田葉正元は誰か一部を借りる者があればと、かような者の出るのを求めていたこと、被告は洋菓子の製造販売を営んでいる会社であるが、十三付近の適当な店舗を捜していたところ、知り合いの訴外藤田稔一の紹介により今里屋が本件建物の一部転貸を考えていることを知り、そこで今本フクを代理する田葉と被告の直営部長をしていた訴外大貝晴雄が交渉を進めた結果、昭和三六年四月一三日本件建物の一部の賃借につき合意が成立したことが認められ(る)。≪証拠判断省略≫

(二)  ≪証拠省略≫によれば、今本フクと被告の間の契約書には双方で貸借の坪数を決めることが記載されているが、実際には契約の当初現場に立会って場所を定めてその範囲を貸借の目的としており、そのため特に坪数を明確にすることはしていないこと、その範囲は陳列棚二個を南北に並べることができるように指示されたこと、検証時(昭和四二年六月二二日)には被告の陳列棚はほぼ原告の主張する貸借の範囲(別紙図面イロハニホヘイで囲まれた部分)内に置かれており、その位置について特に紛争は起っていないこと、および被告の使用する部分を他と区別する仕切り等は何もないことが認められ、右認定に反する証拠はない。以上の認定を総合すれば、証人田葉正元の証言のとおり、別紙図面のロとハを結ぶ線と、ヘとホを結ぶ線をそれぞれ延長した線の交叉点を仮にトとすれば、イロトヘイで囲まれた部分が今本フクと被告の間の貸借の範囲であり、これは契約当初から固定していたものと考えられる。

(三)  ≪証拠省略≫によれば、今本フクは被告に本件建物の一部を貸すにあたり、被告において一階部分を改造する代りに権利金や敷金を受領しなかったこと、同人が被告に一部を使用させるのは本件建物の所有者である安藤との関係で紛争を生ずるおそれがあるところから、右事実ならびに契約書の形式について下記のように転貸と見られないように工夫したこと、今本フクの経営する今里屋と被告との間では商品の搬出入、包装に要する費用、販売上必要となる造作設備等の費用、および商品販売の公租公課等について、被告の要するものは被告自身が負担し、その代り被告の商品売上金は全て被告が取得することになっていたこと、田葉は今本フクと阪急百貨店の間の契約書を参考にして契約条項を定め契約書を作成したのであるが、以上のような点については特に留意し、参考にした契約書とは別異のものとしたこと、また実際の営業は約定どおり行われ、被告は従業員が自己の商号を使って商品の販売に従事し、包装紙も今里屋とは別のものを使っており、営業時間も今里屋のそれに拘束されていないこと―以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

以上の認定によれば、本件建物のうち被告の使用する場所は一定しており、被告の営業について今本フクの指揮監督権は認められず、被告は原告と全く独立して自己の名義によって営業しているものであるから、今本フクと被告の関係はいわゆるケース貸ではなく、通常の賃貸借と解すべきである。

ところで、被告が賃借し、使用する範囲は前記のとおり特定している。しかしながら、被告の賃借部分は原告所有家屋(木造二階建店舗兼居宅一棟)一階の店舗部分(約一〇平方メートル)の一部であり、右一階の店舗全体としては構造ならびに外観上単一性があり、利用のうえで原被告が協議して区分を取り決めるのは可能であるが、前記認定のように今本フクと被告のそれぞれ使用する部分を区別する仕切り等は全くなく、一応の目じるしとなるものとしては、陳列棚があるが、これとても自由に移動できるようになっていて、毎日朝夕移動させているのであって、被告の使用すべき部分を他と判然と画する固定的な目じるしは何もない状態である。従って被告の賃借部分はあまりに独立性を欠き、借家法第一条の二および第二条にいう建物にあたらないものと解される。

三、原告は本件建物を買いうけた後、今本フクと同じ約定で前記部分を引続き被告に賃貸したのであるから、原被告の関係も賃貸借であるが、借家法第一条の二、および第二条の適用はない。

≪証拠省略≫によれば、原告および今本フクは被告に対し賃借期間の満了時である昭和四一年四月一三日の前後に契約の更新を拒絶する申入れをしたことが認められる。従って原被告間の右賃貸借は昭和四一年四月一二日をもって終了したことになる。

原告の明渡しを求める部分は前記認定の賃貸部分の内にあり、また≪証拠省略≫によれば、原被告間の賃料は一ヵ月金四〇、〇〇〇円と定められていたことが認められる。よって本件建物一階のうち別紙図面のイロハニホヘイで囲まれた部分の明渡し、および賃貸借終了後である昭和四一年四月一三日より右明渡しに至るまで、賃料相当額の一ヵ月金四〇、〇〇〇円の割合による損害額の支払いを求める、原告の被告に対する本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北浦憲二 裁判官 岡山宏 安本健)

<以下省略>

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